きょう、あすの生活費にも困っている人が公的な支援を受けようとしても、すぐに受けられないことがある。そん な場合のつなぎとして、埼玉県内の複数の社会福祉法人は九月から、相談があれば最大十万円分の現物支給をする事業を始める。同じような制度は十年前に大阪 で始まり、昨年から神奈川でも実施。専門家は、困っている人を見つける仕組みになるのではと期待する。 (堀祐太郎)

 「公的支援に漏れたグレーゾーンの人への援助。地域のセーフティーネットとしての役割を果たしたい」。事業に参加する社会福祉法人「崇徳(すうとく)会」(ふじみ野市)の野溝(のみぞ)守理事長(62)が趣旨を説明する。

 例えばこんなケース。運営する特別養護老人ホームで入所者の家族が失職し、生活費が足りなくなった。家族に不動産があったため生活保護を受給するには売却が必要となり、受給の決定まで半年以上かかった。

 事業の対象者は、生活保護や年金受給の申請中で生活費が不足している人や、非正規雇用で収入が安定せず生活が苦しい人、家庭内暴力(DV)から避難した人などを想定。行政の支援を受けられるが、当座の生活費が必要な人で、県内在住が条件だ。

 参加法人は、運営する特養ホームや障害者支援施設、保育所などに相談員を置き、援助が必要と判断すれば、食料などの買い物に同行して支払ったり、電気、ガスの料金を負担したりする。生活保護などの公的支援制度も紹介する。

 県内七百五十社福法人のうち、本年度中に七十九法人が参加して基金を設立し、援助費に充てる。野溝理事長は「シングルマザーなどの若者は、公的支 援制度を知らなかったり、生活保護への抵抗感を持つ人が多い」と指摘。公的支援を申し込む入り口の役割も果たしたいとしている。

 一方、うつ病がきっかけで仕事ができなくなり、生活保護を受けるさいたま市の女性(56)は「貧困状態にある人はSOSを出せない人が多い」と、 相談できるかどうかを疑問視。相談できたとしても、七月に生活保護の抑制を盛り込んだ改正法が施行された中、受給につなげてもらえるのか不安が強いとい う。

(8/26東京新聞)